DONZOKO

秘境へようこそ

古典に見るシュール

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読書の秋(というには寒すぎる)という訳で、高校生のときに買った積読本を時間のあるうちに読んでしまおうと躍起になっています。

 

 

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メルヴィルの『白鯨』。今、中巻の終盤です。

 

「モービィ・ディック」という名の白きマッコウクジラに片脚を食われた老船長エイハブの狂気と復讐に満ちた冒険譚!

 

おお、なんと分かりやすい!と思いながら買ったのを覚えてます。

 

「世界10大小説読んでるオレ、素敵やん」とも思いました。

 

はい。読みにくいことこの上ないです。

 

話の大筋は上記の通りなんですが、これは小説というより、「鯨」を軸に世界のあらゆる事象を説明しようとする、メルヴィルの思想を綴った本です。

 

まさに「知的ごった煮」。

 

これでいて僕が所持している八木敏雄氏の訳版が最も読みやすいというのだから驚きです。

 

個人的に一番キツかったのは45章・宣誓供述書。

 

マッコウクジラに関する特異な事実について、作者が見聞き知った実例を挙げて詳しく説明していく章です。こんな具合に。

 

宣誓供述書その一わたくしは、銛を撃ち込まれた鯨が見事に逃げおおせたものの、一定期間(一つの事例においては三年間)をおいて、おなじ銛打ちの手によって再び銛を撃ち込まれて仕留められた三件の事例を個人的に承知している者であります。

 

ふむ。「その一」か。何個かあるのね。と思いながら、その一についての更に詳しい解説を読み進め、その二に突入。

 

宣誓供述書その二。陸上の世界ではあまり周知のことではなくても、マッコウ捕鯨業界では周知のこととして、大洋おける特定の鯨が遠く時と場所をへだてて多くの人によってそれと認知された著名な歴史的事例がいくつかあります。

 

と、もう既にここでキツいのですが、読み進めましょう。

 

ーーーーーーーーーー中略ーーーーーーーーーーーー

 

死後においても船首楼の水夫たちの語り草となってその名を永遠たらしめているばかりか、およそ名声というものがもちうる、あらゆる権利、特権、栄誉をほしいがままにし、いまやその令名たるや、かのカンビュセスあるいはカエサルの何も匹敵するほどであります。おお、ティモール・ジャックよ!高名なるレヴィヤタンよ!おぬしは氷山のように傷だらけの巨体をその名にちなむ東洋の海峡にひそませ、その吹き上げる潮はオムベイのヤシの浜辺からしばしば見られるというではないか?おお!ニュージーランド・トムよ!おぬしがそうではなかったのかーーー入れ墨島と呼ばれるその島の近海をゆくあらゆる船乗りを震撼させたのは?おお、モーカンよ!日本近海の王者よ!その高く吹き上げる潮の柱は、ときおり紺碧の空にそびえる雪白の十字架とも見えたというがーーーそれこそおぬしのしわざではなかったか?おお!ドン・ミゲールよ!背中に神秘的な象形文字を刻んだカメにも似た容姿のチリの鯨ーーーそれこそおぬしではなかったか?ずばり散文的に申し上げるなら、以上挙げた四頭の鯨は古典学者にとってのマリウスやスラのようなものでありまして、鯨学の学徒なら知らない者はないのであります。いや、それだけではありません。ニュージーランド・トムやオン・ミゲールの二頭などh

 

 

 

もういい!

 

 

いや、知らん!誰やニュージーランド・トム!

 

と、そんなこんなで4年も放置してしまっていました。

 

何回か手に取って読んでみたものの、やっぱり挫折します。

 

そして今回、何度目か分からないリベンジを挑んだんですが、是非とも最後まで読み通したい本ではあるので、とにかく読了できるような読み方を目指しました。

 

といっても単純なもので、興味あるとこだけ読む。

 

物語の本筋だけ追って、捕鯨に使うロープがどうだかという話が始まったら「あーまたなんか言ってらあ」くらいの感じでペラーッと読む。

 

これが自分には合っています。

 

白鯨本来の面白さを大きく減じる読み方ではあるかもしれませんが、読了しないことにはしょうがない。

 

この本全てを楽しめる知識も教養も、僕にはございませんのです。

 

もちろん、本筋から逸れた部分でも面白いところはあります。

 

美食としての鯨肉なんて面白かったです。

 

人も知るように、虹は晴れ渡った空にはあらわれない。虹は霧にしか色どりをそえない。ときおり聖なる直感が雷光のごとく我が頭にひらめくことがあるけれども、それがひらめくのは、わが暗澹たる疑念の濃霧を通してのみである。

 

なんて洒落た表現も多くあります。

 

そして、この本の最も魅力的な部分は、個人的に登場人物同士の会話にあると思います。

 

翻訳者である八木氏の成せる技らしく、会話はゲラゲラ笑える内容のものが多いです。

 

第64章・スタッブの夜食。

 

スタッブという二等航海士(たぶん船長エイハブ・一等航海士スターバックに次いで船内で3番目の地位。ちなみにスターバックはスターバックスのネーミングの元ネタです)が、仕留めた鯨のステーキを夜食に。しかし、船で曳行している鯨の死体に鮫が群がります。

 

鮫が暴れ、その体を船にぶつけまくるもんで、うるさくてたまらない。食事に集中できないスタッブが、調理してくれたコックのフリースに鮫をなんとかしろと無理難題を突き付けます。

 

スタッブ「なんて騒がしい連中だ!コック、やつらに言ってくれ、上品に、おとなしく食べるぶんには文句はないが、とにかく静かにやってくれないか、ってな。畜生、うるせえな、これじゃあ自分の声も聞こえんではないか、コック、行ってわがメッセージをつたえてこい。さあ、このカンテラをもって」

 

フリース「みなの衆よ、命令だから言うが、おぬしら、そのいまいましい音さたてるのはやめてくれろ。聞こえるか?そのくちびるをピチャピチャいわすのはやめてくれろ!スタッブさまの言わっしゃるには、おぬしらが胃袋さパンクさせるのはかまわねえけども、そのくちびるさピチャピチャいわすのはやめてくれろ!畜生め!」

 

スタッブ「コックのこん畜生め、お説教しているときに、畜生なんて罰当たりなことを言ってはならん、いいかコック、そんなことでは罪びとを悔い改めさすことはできんぞ!」

 

フリース「罪びとだと?そんなら自分で説教するがええだ」

 

機嫌を損ねたのか、フリースは回れ右をして立ち去りかける。

 

スタッブ「おい、コック、まて。つづけろ、つづけろ」

 

フリース「さて、それでは、親愛なる同胞のみなさま

 

スタッブ「その調子だ!

 

最高にシュールで滑稽です。

 

鮫に向かって「親愛なる同胞のみなさま」で腹筋が崩壊しました。

 

こん畜生め、畜生というな!とは恐れ入ります。

 

Zガンダムの主人公・カミーユ「何故そうも簡単に人を殺せるんだよ!死んでしまえ!」に匹敵する名台詞です。

 

とまあ、読み方を変えると実に面白く愉快な本であります、白鯨。

 

1週間で上巻+中巻のほとんどを読んでしまいました。

 

親愛なる同胞のみなさまも、この機会に長い間放置している本でも読んではみたらいかかがでしょう。