DONZOKO

辺境

カメラについて

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再就職への不安が消え、心の安寧を幾ばくか取り戻した後、撮り溜めていたフィルムを現像に出してきた。半年以上放置していたので、どんな写真を撮ったかも覚えていなかった。忘れた頃に現像し、「さてどんな写真があるかな」とワクワクできるのもフィルムカメラならではの楽しみ方だろう。上の写真は、土砂降りの夜に自宅のベランダから撮ったものだ。「こんな真っ暗ではロクなものにならんだろうな」と思いつつ撮ったことを覚えているが、雨粒がストロボの光をキャッチして、冬の日本海側の都市を思わせる仕上がりになった。実際は、灼熱都市・大阪なのだが。

 

この写真を現像しに行った日、ふと見慣れないカメラ屋の看板を見かけた。何度も行ったことのある場所だったので、「こんなところにカメラ屋なんてあったか?」と思いながら、好奇心で入店。狭い店内の中で、常連と思しき客と店主が話し込んでいた。

 

気まずさを感じながらショーケースの中を物色していると、「気になるものがあったらいうて下さいね」と、気さくな店主。中古カメラ屋によくいる、どこぞの山脈のような険しい表情でムスッとカウンターに鎮座している親父、ではなく、のどかな里山を思わせる、優しいおっちゃんだった。

 

対応に気をよくした私は、ショーケースの下隅にあったミノックスのスパイカメラに目を付けた。存在そのものは知っていたが、実際にまじまじと見てみると、「如何にも」な感じがして、所有欲を満たしてくれそうな印象を受けた。出自がバルト三国というのも、また渋い。「その昔にスパイが実際に使っていた」以外の情報を全く知らなかったので、「フィルムは何を使うのか?」と聞くと、専用のものがあるらしい。現在も一応生産は続いているようだ。「八百富に置いとるんちゃうかな?」と常連客のおっさんが呟く。店主はというと、「描写は大したことないが、面白いカメラだと思う」ということだった。「昔はこれもよう売りましたわぁ」と思い出を語っていた。簡単に調べてみたところ、レンズの描写は中々馬鹿にできない出来ということだった。実際に使ったことがないので、真偽のほどは定かではない。

 

店内にはレンジファインダー機が多く並んでいたため、「レンジファインダーを初めて持つとなるとどこのものがおすすめか?」ということを聞いた。店主は「それはライカだ」と即答した。店主は敬虔なライカ教徒であった。ライカファンと話したことが無かったので、純粋にライカの良いポイントを聞いてみたくなった。店主の所感はざっくりと、「国産カメラは写りが良すぎて味気がない」「ライカの真髄は引き延ばしたときに現れる」というような感じだった。

 

要は「ええ雰囲気の写真が撮れまっせ」ということだった。ニコンファンの私としては、F2が報道カメラ界を牛耳っていたことが象徴しているような、愚直なまでの写実性に惹かれる部分がある。そう言ってみればそれらしく聞こえるが、入門機であったニコンd5200を2年と少し使っただけで、フルサイズデジタル一眼には目もくれず、「フィルムの雰囲気が欲しい」と絶叫しながらローライ35を買ってはしゃいでいた身としては、店主の言う「ええ雰囲気」に関しては、もっともだと言わざるを得ない。

 

話を聞くうちに、店主はライカ教徒、というよりは聖地・ドイツ製カメラの写りが好みらしいことが分かってきた。「前にはローライ35を使っていたが、壊れてしまったので今はニコン35Tiを使っている」という話をしたところ、「あぁ、ローライならええ写真が撮れますね」と返ってきた。そこからは機械式VS電子式の話になり、「電気なんか回路がいかれたらそれで終いやのになあ」というようなことを、常連客と店主が口を揃えて話していた。

 

2人の話には一理あるし、ローライを使っていた時には私もそう思っていたが、電子式は楽である。めちゃくちゃ。私は不器用なので、機械式の場合にはしばしばフィルム装填を失敗したり、巻き上げレバーが嫌に固く、強めに巻いたらカメラの中で「ブチィ」とフィルムが避ける音がしたり、せっかく撮った写真を己の不手際で台無しにすることも少なくなかった。

 

35Tiに変えてからは、フィルムは自動で巻いてくれるし、設定は全部オートだし、沈胴式のレンズをいちいちずっぽずっぽする、ローライ独特の儀式をせずに済む。「なんて優秀なカメラだ」と涙しそうになったほどだ。

 

しかし、機械式のロマンもよく分かる。このイデオロギーの対立は、まんま時計の電波VS機械式に当てはまるだろう。実用性で機械式は電子式には敵わない。けれども、じっこじっことフィルムを巻きながら、その場の明るさ、対象までの距離を目で測り、いちいちダイヤルを回して設定し、「俺は"写真機"を触っているのだァ」と誰に対してかも分からない優越感の中で写真を撮る楽しみは、とても良くわかる。所詮私は現像した後にCDに焼いてもらう程度の極々ライトユーザーなので、本格派の人から言わせれば「何を分かった風に・・・」ということになるだろうが。一時期、自宅現像をしようか試みたこともあったが、下調べの時点で面倒になってやめちゃいました。ハイ。

 

というわけで、機械VS電子の最終的な結論を出せないコウモリ人間の私がすべきことは、ライカを買うでもミノックスを買うでもなく、ローライを修理に出すことである。撮影自体は出来るのだが、撮り終わった後にフィルムを巻き上げるための歯車が回らなくなってしまった。撮りっぱなしで終わってしまうのである。言うなれば、「道は走れますが駐車はできません」というドライバーのようなものだ。使い物にならない。

 

堺だかどこだかにまだ修理をしている店があると見たことがある。早いうちに持って行った方が良さそうだ。3万くらいでなんとかなるだろうか。「絞り」が何なのかということを教えてくれた思い出深いカメラだ。それっぽいお洒落なカフェによく置いてある、埃と錆だらけのオブジェにするにはあまりに勿体ない。

 

 

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最後に、「35Tiは味気ないカメラ」という印象を持たれた方がいらっしゃるかもしれないが、個人的にはそんなことはないと思う。まぁ、引き延ばしとか、したことないんですけどね。写真は竹生島へ出発する前に長浜の港で撮ったものだ。生憎の雨だったが、湿っぽくてどこか鄙びた雰囲気を上手く表現できていると思う。釣りいきてー。

 

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はやくフルバージョンを公開してほしい。「SHISEIDO、GINZA、TOKYO」の三文字は、「KANENASHI、MUSHOKU、OSAKA」の私からすると、あまりにも、眩しい。