DONZOKO

秘境へようこそ

靴とTPO

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 先日、知人に誘われバーベキューに行った。スニーカーの類いは全く持っておらず、年がら年じゅう革靴を履いているから、この日も革靴だった。800円で叩き売られていたユニクロのTシャツにジーンズという、ラフを擬人化したような恰好に、ウェストンのダブルモンクを履いていった。シチュエーションを考えればパラブーツあたりが適役なのだろうが、気分でウェストンを選んだ。服との組み合わせも正直アレだし、バーベキューにダブルモンクとは妙なチョイスだとも思ったが、「ドキッ!野郎だらけのバーベキュー大会!」だと聞いていたので、誰も足元なぞ見とらんだろうと思い、履きならしついでのつもりだった。

 

朝に用事があったため、バーベキューには遅れて参加した。「遅れてすみません!いやぁ買い出しいけず申し訳ない!僕はフランス製の革靴なんて履いてもいないし持ってもいません!」みたいな顔をしながら肉焼き大会に飛び込んだ。すると横の席の男が「え、なんかすごい靴履いてますねえ!」と言い出した。バカ野郎!何を見てやがるんだコイツは!と軽くキレそうになったが、気付かれたのでは仕方がなかった。その場にいる面子のほとんどは初対面だったし、遅れてきたやつが何か妙な靴を履いている、という話で盛り上がってしまうと悪い意味で目立ちそうだったので、深くツッコまれる前に違う話題にもっていきたかった。「あははー、スニーカー洗って乾いてなくてー。これしかなかったんですよー。にしても今日は晴れて良かったですねえ」と返す。

 

「晴れましたね!僕も革靴たまに履くんですよ!それはどこの靴なんですか?」と聞かれた。いや、天気の話で続けてくれよ。靴の話はもう終わりでしょうが。そもそも俺は自分の趣味について他人に話すのが得意ではないのだ。話すとしたら気が知れていて、かつ同じ趣味の人間くらい。しかし、これだけツッコんでくるということはコイツも靴好きなのかもしれないし、ちょっと話してみるか、と思った。それが間違いだった。

 

「なんか百貨店のセールで安かったんで適当にかったやつです、ブランドとかよく分からなくて」とでも返せばよかった。律儀に「J.M.Westonです」と答えた。向こうはウェストンを知らなかったようで、「ダ、ダルチムチェストン?」とか言いながらググりはじめた。もうなんなのコイツ。詳しくねえなら掘り下げんなよ、そのワードで検索しても何にも出ねえだろ、ほらストリートファイターのキャラしか出てねえじゃねえか、とキレ散らかしながら頭をはたきそうになったが、何もかも面倒になったので「ジェイエムウェストンですよー」と軽く訂正を入れ、肉を焼くことした。

 

トングで薄っぺらい肉を焼いていると、ソイツはまたしても靴の話題をぶっこんできたのであった。素直にしつこい。「あ、フランス靴なんすね!フランスだったらやっぱパラブーツでしょ!」「バーベキューにそんなの履いてきたら油で汚れちゃいません?タフなの履きましょうよ!」とかベラベラ勝手に喋っていた。最終的に「男は黙ってトリッカーズ!」という結論に達していた。「確かに革靴を履くにしても、この場面ならもうちょっとカジュアルな方が自然だったな、コイツはやく帰んないかな」と、雑な感想を抱きながら、俺はいつの間にか焼けていたエビの殻を剥いていた。

 

ソイツが声を大にして俺の靴について主張するもんだから、その場にいた人々の視線が俺の足元に刺さりまくって居心地が悪いことこの上なかった。幸い、靴の話は15分そこらで終わり、あとは平和なバーベキューとなった。

 

とはならず、最後の最後に地獄が待ち受けていた。食い終わって、片付けて、解散となった。解散とはいっても最寄り駅までは全員一緒に向かった。そしてホームで電車を待っていた。そこで悲劇は起きた。実は先ほどの男とは別にもう一人、そこそこの靴好きがいたのだった。ホームで全員が電車を待っている最中、やおら「その靴はどこ製だ」「革はどこのだ」「言われてみればフレンチっぽい佇まいだ」などと評論が始まった。そしてあろうことか皆の面前でしゃがみだし、俺の靴を撫で始めたのであった。「いい革だね」とか言いながら。やかましいわ。靴に興味がない人間は全員苦笑いだった。そりゃそうだ。

 

とんだ恥をかいてしまった。革靴が好きな人間の数はそんなに多くはないと思っていたが、いるところにはいるものなのか。油断していた。あとやはり巷でよく言われるように足元は目に付きやすいらしい。365日革靴なのも考え物である。今回のように、時と場合によってはひどく不自然に映るらしい。最早革靴しか持ってない身としては、その辺の感覚が鈍っていた。

 

ということを今回学んだ。ウェストンを通して、モンテスキューやルソーに代表されるフランスの啓蒙思考を垣間見た気がする。親愛な読者の皆様も、嫌いな奴が革靴好きだったら、公衆の面前で「いい革だね」と言いながらソイツの靴をナデナデしてはいかがだろうか。うまい具合にソイツが心理的ダメージを追うか、逆に良い気になってマシンガン・オタク・トークが始まるかどうか、その辺の判断はお任せする。責任は取れない。